経理の仕事で最も重要な仕事のひとつが会計期間の数字を確定させる決算業務です。
この記事では決算業務の内容と決算の流れを解説していきます。経理初心者だけでなく経理・会計職に携わる方であれば必ず知っておきたい内容となっているので、知識を整理するうえでも確認しておきましょう。
決算とはなぜ必要か?
決算とは、企業の経営成績や財務状況を表す重要な作業です。
企業の会計期間における損益計算および企業の資産・負債・純資産の状態を表します。
決算においては貸借対照表や損益計算書など財務諸表を作成するほか、外部機関向けに決算短信等の資料を作成することが経理担当者の役割です。
決算の目的
決算の目的には主に以下の3つがあります。
決算の目的 |
・経営者自身が財務状態や経営成績を把握すること ・外部の利害関係者に経営状態を報告すること ・納税額の計算をすること |
決算を行うことで経営成績を確定し、経営の判断材料や意思決定に役立てることが大きな目的です。
また、株主や債権者などの利害関係者(ステークホルダー)へ適切に企業の経営状況を報告することも決算の目的となっています。
決算の過程で損益を確定することで納税額の計算をするためにも役立ちます。
決算の流れ
ここからは、決算業務の具体的な流れについて確認していきましょう。
決算の流れは以下の手続きで行われます。
決算の流れ |
・決算残高の確定 ・税金の計算 ・財務諸表の作成 ・決算書の作成 ・会社機関の承認を受ける |
なお、決算を正しく行うためには日々の記帳が正常に行われていることが前提となります。
決算期は経理にとって1年で最も繁忙な時期となりますので、決算期に慌てることがないように日ごろから決算を意識しておきましょう。
決算残高の確定
決算においては、決算残高を確定します。
日々の取引を会計仕訳として記帳したものを集約した帳簿を総勘定元帳といいます。
決算期においては、総勘定元帳に基づいて決算整理仕訳を起票し、最終的な財務諸表を作成することが一旦のゴールです。
税金の計算
決算残高を確定したら税金の計算を行います。
すべての企業には納税義務があり、法人税や消費税などの税金を国や地方に納める必要があります。
このときに支払うべき税金を計算する根拠を用意し、税金の計算を行うことが経理担当者の役割です。
会社機関の承認を受ける
税金の計算が済んだら最終的な決算書および財務諸表を作成します。
財務諸表は貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書など企業の財務状態を表すための計算書類です。
ここまでに作成した計算書類は取締役会や株主総会など、会社機関の承認を受けてから正式な決算となります。
決算の具体的な業務内容とチェックポイント
決算を正しく行うためには資産や負債が正しい状態であることを確認する必要があります。
そのため、決算の際には棚卸資産や固定資産の状態をチェックします。
決算で経理担当者がチェックするべきポイントについて、詳しく見ていきましょう。
棚卸資産のチェック
棚卸資産とは企業が販売目的で一時的に保有している資産です。
棚卸資産の例としては以下があります。
棚卸資産の例 |
・商品 ・製品 ・仕掛品 |
会計帳簿に記載されている資産が実際に存在するかどうかを会計用語で実在性といいます。
決算期においては棚卸資産の実在性をチェックして、正しい会計処理を行います。
固定資産のチェックと減価償却費の計上
固定資産とは企業が長期保有目的で所有している資産です。
固定資産の例としては以下があります。
固定資産の例 |
・土地 ・建物 ・機械設備 ・のれん |
固定資産のうち、減価償却の必要があるものは決算期に減価償却の計上を行って正しい費用認識をします。
固定資産台帳を活用し、適切に減価償却費を計上するよう準備しておきましょう。
経過勘定のチェック
経過勘定とは、資産や負債の状況が損益計上とズレが生じる場合に暫定的に使用する科目です。
経過勘定は決算を跨いで翌期に繰り越すことがないよう、状況を把握して適切な科目に振り替えなければなりません。
経過勘定の例 |
・未払費用 ・前払費用 ・未収金 ・前受金 ・仮受金 |
例えば、暫定的に仮受金として計上していたお金が当期中に収益へ変わっている場合、適切な収益勘定に振り替える必要があります。
決算においては、時間が経過している経過勘定について状態を把握し、適切な科目へ振り返ることを検討しましょう。
決算月が企業によって違う理由
決算月は3月末あるいは12月末というのが一般的です。
しかし、会社法では決算月をいつにするのかという規定はありません。そのため、企業は任意の月を決算月として選べるのです。
決算月はどのように決めるのか?詳しく見ていきましょう。
株主総会の決議による
決算月は株主総会の決議によって決まります。
日本企業では3月を決算月としているのが一般的ですが、海外の企業や外資系の企業では12月が決算月であることが多いです。
なお、設立後に決算月を変更する場合は株主総会の特別決議を経て定款を変更することが認められています。決算月を変更する場合、会計年度が1年を超えないように調整しなければなりません。
会社の繁忙期を考慮する
決算月を決める際は会社の繁忙期を考慮するという考え方があります。
例えば、12月など1年の終わりは他の業務で忙しいため決算月と重ねるのを避けるのが一般的です。
逆に、繁忙期に決算月を敢えて重ねることで会社のムードを高めるという考え方もあります。
節税対策のため
節税対策を考慮して決算月を決めることもあります。
資本金が1,000万円未満の株式会社は第1期と第2期の消費税納付が免除されます。
そのため、第1期と第2期の会計期間がなるべく長くなるような決算月を定めると節税対策になるのです。例えば、7月に設立した会社は6月末を決算月とすることで1年間を丸々消費税免除の対象とすることができます。
その他にも、法人税や消費税は決算月から2ヵ月以内に納める必要があるため、キャッシュフローを考慮して決算月を決めるという場合もあります。
決算短信とは決算報告に必要な資料!
上場企業特有の決算業務として、決算短信の作成があります。
決算短信はすべての上場企業に作成・開示することが義務付けられており、投資家向けに情報発信するための資料とされています。
決算短信とは?
決算短信は企業の決算発表をまとめた書類のことです。
上場企業は決算から3ヵ月以内に有価証券報告書を開示することになっていますが、決算短信は45日以内に開示します。
決算短信は正式な決算書類ではありませんが、速報としての役割を持ちます。事業概況や財務諸表をサマリにまとめて投資家向けにいち早く決算の情報を届けるのです。
決算短信はいつ公開される?
決算短信は通常、決算の1~2ヵ月後を目途に発表されます。上場企業の場合、ホームページ上で決算短信を確認できることも多いです。
事業の概況および財務諸表を簡略化したものを掲載しているため、経理部は決算短信の作成に大きく関わります。
まとめ
経理担当者が決算で行う業務について解説していきました。
決算は経営者が経営成績および財務状況を適切に把握すること、外部の利害関係者に適切な情報発信することが目的です。
決算期は経理にとって最も繁忙期です。決算期になってから慌てて決算を進めるのではなく、日ごろから決算を意識して適切に会計処理を行うよう準備することを意識しましょう。
執筆者プロフィール
岩橋慧(いわはし さとる)慶應義塾大学商学部卒業後、一部上場企業の経理部門に従事。決算管理、残高管理などを担当する。フリーライターに転身後、経理実務経験や会計知識を活かしたSEOライティングに従事。主にオウンドメディアの記事制作に携わる。