上場準備(IPO)とは?IPOに必要な条件を紹介
上場準備(IPO)に経理・会計で必要な実務を徹底解説
IPO(Initial Public Offering)とは、株式会社が株式を株式市場(証券取引市場)に上場して株式の売買を可能にすることです。
IPOをすることで資金調達力が上がり、会社の信用やブランドを向上できるなどのメリットがあります。
証券市場に株式上場を果たすための条件
IPOを果たすためには、株式市場ごとの審査基準を満たさなければなりません。そのため、IPOを目指す企業の経理・会計部門では社内体制を整えるために多くの準備が必要となります。
上場する株式市場には以下3つの区分が設けられています。
・プライム市場:グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場
・スタンダード市場:十分な流動性とガバナンス水準を備えた企業向けの市場
・グロース市場:高い成長可能性のある企業向けの市場
なお、この区分は2022年4月より新たに見直されたもので、以前は東証一部、東証二部、マザーズ、JASDAQという区分でした。
株式上場を果たすための条件は市場ごとに異なります。
以下は、日本取引所グループで公開されているグロース市場における上場審査基準の形式要件および常時審査の内容です。
項目 | グロース市場への新規上場 |
株主数 (上場時見込み) | 150人以上 |
流通株式 (上場時見込み) | a.流通株式数 1,000単位以上 b.流通株式時価総額 5億円以上 (原則として上場に係る公募等の見込み価格等に、上場時において見込まれる流通株式数を乗じて得た額) c.流通株式比率 25%以上 |
公募の実施 | 500単位以上の新規上場申請に係る株券等の公募を行うこと |
事業継続年数 | 1か年以前から取締役会を設置して、継続的に事業活動をしていること |
虚偽記載又は不適正意見等 | a.「上場申請のための有価証券報告書」に添付される監査報告書(最近1年間を除く)において、「無限定適正」又は「除外事項を付した限定付適正」 b.「上場申請のための有価証券報告書」に添付される監査報告書等(最近1年間) において、「無限定適正」 c.上記監査報告書又は 四半期レビュー報告書に係る財務諸表等が記載又は参照される有価証券報告書等に「虚偽記載」なし d.新規上場申請に係る株券等が国内の他の金融商品取引所に上場されている場合にあっては、次の(a)及び(b)に該当するものでないこと (a)最近1年間の内部統制報告書に「評価結果を表明できない」旨の記載 (b)最近1年間の内部統制監査報告書に「意見の表明をしない」旨の記載 |
上場会社監査事務所による監査 | 「新規上場申請のための有価証券報告書」に記載及び添付される財務諸表等について、上場会社監査事務所の監査等を受けていること |
株式事務代行機関の設置 | 東京証券取引所(以下「東証」という)の承認する株式事務代行機関に委託しているか、又は当該株式事務代行機関から株式事務を受託する旨の内諾を得ていること |
単元株式数 | 単元株式数が、100株となる見込みのあること |
株券の種類 | 新規上場申請に係る内国株券が、次のaからcのいずれかであること a.議決権付株式を1種類のみ発行している会社における当該議決権付株式 b.複数の種類の議決権付株式を発行している会社において、経済的利益を受ける権利の価額等が他のいずれかの種類の議決権付株式よりも高い種類の議決権付株式 c.無議決権株式 |
株式の譲渡制限 | 新規上場申請に係る株式の譲渡につき制限を行っていないこと又は上場の時までに制限を行わないこととなる見込みのあること |
指定振替機関における取扱い | 指定振替機関の振替業における取扱いの対象であること又は取扱いの対象となる見込みのあること |
項目 | 内容 |
企業内容、リスク情報等の開示の適切性 | 企業内容、リスク情報等の開示を適切に行うことができる状況にあること。 |
企業経営の健全性 | 事業を公正かつ忠実に遂行していること |
企業のコーポレート・ガバナンス及び 内部管理体制の有効性 | コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること。 |
事業計画の合理性 | 相応に合理的な事業計画を策定しており、当該事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること又は整備する合理的な見込みのあること。 |
IPOを実現するためにはこれらの形式要件を満たして、かつ維持し続けなければなりません。
参考:上場審査基準|日本取引所グループ
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/criteria/listing/02.html
上場するために経理・会計部門に求められること
IPO準備にあたっては、経理・会計部門において上場の審査基準を満たすべく体制を整える必要があります。
上場会社に必要な会計基準や内部統制を確立し、適切なコーポレート・ガバナンスを実現することが目的です。
・上場企業の会計基準を取り入れる
・コーポレートガバナンスの策定
・内部統制の確立
上場企業の会計基準を取り入れる
IPOを果たす、すなわち上場企業になるためには企業会計原則に基づいた会計基準を取り入れる必要があります。
未上場では許されていた会計処理も、上場企業になれば許されないということもあります。
上場企業の会計基準を取り入れるためには、複雑な計上基準を設けることや、必要な書類を取り揃えなければなりません。
企業会計原則をしっかり理解した経理担当者が業務フロー・マニュアルを確立する必要があるでしょう。
コーポレートガバナンス策定
株式市場の上場基準にもあるように、コーポレートガバナンスを整える必要があります。
企業の信用を維持するためには、適切なコーポレートガバナンスが必要です。
コーポレートガバナンスとは企業統治ともいい、適切な企業経営を実施できているかどうかを監視する体制を指します。
内部統制の確立
コーポレートガバナンスと同様、内部統制の確率も株式上場の際に求められます。
内部統制とは、組織の業務を適切に運営するための体制を確保することです。
内部統制の体制が整っている企業においては、業務の適正は確保され、組織が有効に運営されていきます。
IPOに必要な経理・会計部門の具体的な業務
IPOをするにあたって、経理・会計部門では投資家や証券会社などに情報を公開するため、様々な準備が必要です。
具体的には、以下の準備をすることで外部の投資家向けに適切な情報を公開するための準備を整えます。
・財務諸表の作成・開示
・外部監査への対応
・証券会社および証券取引所による審査対応
財務諸表の作成・開示
IPOを実現するためには、取引所が行う公認会計士監査をクリアする必要がある。
IPOをする際は財務状況が適正であるかどうか、財務デューデリジェンス(財務状況の調査)を実施します。
適切な財務諸表を作成するためには、以下の条件をチェックしましょう。
会計帳簿の整理
適切な財務状態を示すためには、根拠となる会計帳簿を整理する必要があります。
実地棚卸の実施
企業の資産状況をクリアにするため、適切な実施棚卸が必要です。
不明残高の解消
不明な残高は企業の資産状況に疑念を生じさせてしまいます。
不明な残高は適切に処理するようにしましょう。
監査への対応
IPOを実現するためには、適切な監査への対応が必要です。証券市場に上場するためには、上場会社監査事務所による監査が義務付けられています。
監査法人など、外部の監査機関から監査を受けることで財務諸表が適正であることを証明できるのです。
また、外部の監査法人から監査を受けることで財務諸表の作成において適切な助言を受けることを期待できます。
証券会社および証券取引所による審査対応
IPOを果たすためには、証券会社および証券取引所による審査対応を受けなければなりません。
IPOの手続き上「有価証券の引受け等に関する規則」に基づき、主幹事証券会社を選定し、引き受け審査を受けます。
同様に、証券取引所による審査もクリアする必要があります。
これらの審査では、企業がIPOを実現するにあたって上場適格性があるかどうかを審査するものです。
上場後に気を付けたい経理・会計部門の業務
IPOは上場して終わりではなく、上場後も適切な管理部門の体制を整備する必要があります。
管理部門の体制強化には、適切な人員配置が必要です。
経理・会計部門においてはCFOや公認会計士などの人材を探しましょう。
また、経理部門だけでなく監査にも精通した人材を探しておくとよいでしょう。
まとめ
IPO準備として経理・会計部門では適切な会計基準に対応する必要があります。
IPOを目指す企業は証券市場の株式上場の要件を満たすため、適切なコーポレートガバナンスおよび内部統制を確立しなければなりません。
また、体制が整っていない状態から体制を作り上げるため、相当の激務となります。IPOの手続きを経験した経理担当者は貴重な人材として、転職市場でも重宝されるでしょう。
適切な会計基準や内部統制を整えて、IPOに備えましょう。
執筆者プロフィール
岩橋慧(いわはし さとる)慶應義塾大学商学部卒業後、一部上場企業の経理部門に従事。決算管理、残高管理などを担当する。フリーライターとして独立後、経理経験や会計知識を活かしたSEOライティングに従事。主にオウンドメディアの記事制作に携わる。