「DXを進めたいが、ITツールの導入コストが…」
「社員のスキルアップ、特にリスキリングが必要だが、研修費用が捻出できない…」
多くの中小企業の経営者様が、このようなジレンマに直面しています。デジタル化の波に乗り遅れれば競争力を失い、かといって人材育成を怠れば企業の未来はありません。もし、この「ITツール導入」と「人材育成」を同時に、かつ国の強力な支援を受けて実現できる方法があるとしたら、知りたくはありませんか?
本記事では、中小企業のDX推進と人材育成を強力に後押しする「IT導入補助金」と「人材開発支援助成金」の複合活用について、2025年12月現在の最新情報に基づき、専門的かつ分かりやすく徹底解説します。この記事を読めば、両制度の賢い連携方法を理解し、貴社の持続的成長に向けた具体的な一歩を踏み出せるはずです。

まずは基本から!補助金と助成金、その決定的な違いとは?
「補助金」と「助成金」、どちらも返済不要の資金支援制度ですが、その性質は大きく異なります。この違いを理解することが、戦略的な活用の第一歩です。
目的と管轄省庁の違い
補助金は、主に経済産業省が管轄し、国の政策目標(産業振興、DX推進など)に合致する優れた事業を支援する制度です。公募制で、申請された事業計画が審査され、採択される必要があります。一方、助成金は、主に厚生労働省が管轄し、雇用の安定や人材育成、労働環境の改善といった特定の要件を満たす事業者を支援します。財源は企業が支払う雇用保険料が中心です。
受給のしやすさと財源の違い
補助金は国の税金を財源とし、予算や採択件数に上限があるため競争が激しく、採択率は必ずしも高くありません。詳細な事業計画書が求められ、公募期間も短いのが特徴です。対して助成金は雇用保険料を財源とし、定められた要件を満たせば原則として受給できるため、計画的に活用しやすいと言えます。
| 項目 | 補助金 | 助成金 |
|---|---|---|
| 主な管轄 | 経済産業省、地方自治体など | 厚生労働省 |
| 目的 | 産業振興、DX推進、新規事業創出など | 雇用の安定、人材育成、労働環境改善など |
| 財源 | 税金 | 主に雇用保険料 |
| 受給難易度 | 審査があり競争。採択が必要 | 要件を満たせば原則受給可能 |
| 公募期間 | 短期間で不定期 | 通年や長期間 |
両制度を複合活用する大きなメリット
目的や管轄が異なるため、この二つの制度は条件を満たせば併用(複合活用)が可能です。例えば、「IT導入補助金で業務効率化のためのeラーニングシステムを導入し、人材開発支援助成金でそのシステムを使った社員研修の費用支援を受ける」といった戦略が描けます。これにより、DXの基盤構築とそれを使いこなす人材の育成を、最小限の自己負担で同時に実現できるのです。これこそが、両制度を複合活用する最大のメリットです。
【生産性向上】IT導入補助金2025の概要とポイント
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者の皆様が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助することで、業務効率化・売上アップをサポートする制度です。
IT導入補助金の目的と対象事業者
本制度の目的は、中小企業の労働生産性向上とデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進です。特に2025年度は、インボイス制度への対応やサイバーセキュリティ対策の強化も重要なテーマとされています。対象となるのは、日本国内で事業を営む中小企業・小規模事業者等です。資本金や従業員数によって定義されており、多くの企業が対象となります。
対象となるITツールとは?eラーニングシステムも対象に
補助金の対象は、事務局に事前に登録されたITツール(ソフトウェア、クラウドサービス等)に限られます。会計ソフトや受発注システム、決済ソフトといった基幹システムから、顧客管理(CRM)や営業支援(SFA)ツール、そして社員教育に不可欠なeラーニングシステム(LMS:学習管理システム)なども幅広く対象となっています。また、ソフトウェアとセットで導入する場合に限り、PCやタブレット、レジなどのハードウェア購入費も補助対象となる場合があります。
主要な申請枠と補助率・補助額
IT導入補助金には複数の申請枠がありますが、ここでは主要な枠をご紹介します。
| 申請枠 | 主な目的 | 補助率 | 補助額 |
|---|---|---|---|
| 通常枠 | 自社の課題に合ったITツール導入による生産性向上 | 1/2以内 | 5万円~450万円未満 |
| インボイス対応類型 | インボイス制度に対応した会計ソフト、決済ソフト等の導入 | 中小企業:2/3~4/5 小規模事業者:3/4~4/5 | ~350万円 |
| サイバーセキュリティ対策推進枠 | サイバー攻撃被害の低減 | 1/2以内 | 5万円~100万円 |
特に、最低賃金近傍で事業を営む事業者に対しては補助率が引き上げられるなど、事業環境に応じた手厚い支援が用意されています。
申請から導入までの流れとIT導入支援事業者の役割
IT導入補助金の申請は、事業者単独では行えません。事務局に登録された「IT導入支援事業者」とパートナーシップを組んで共同で申請手続きを進める必要があります。IT導入支援事業者は、ツールの選定相談から申請サポート、導入後の活用支援までを担う重要な存在です。大まかな流れは以下の通りです。
- IT導入支援事業者を選定し、導入したいITツールを相談・決定
- 「gBizIDプライム」アカウントの取得と「SECURITY ACTION」の実施
- IT導入支援事業者と共に交付申請書を作成・提出
- 事務局による審査後、交付決定
- ITツールの発注・契約・支払い(交付決定後に行うことが絶対条件)
- 事業実績報告
- 補助金の交付
2025年12月現在、今年度の公募も最終盤に差し掛かっています。来年度の公募を見据え、今から情報収集と準備を始めることをお勧めします。
【人材育成】人材開発支援助成金の概要とポイント
人材開発支援助成金は、事業主が従業員に対して職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です。
人材開発支援助成金の目的と対象事業者
この助成金の根幹にある目的は、労働者の職業生活の全期間を通じて、段階的かつ体系的な職業能力開発を促進し、雇用の安定と再就職の促進を図ることです。対象となるのは、雇用保険の適用事業所の事業主です。また、訓練を受ける従業員も雇用保険の被保険者であることが必要です。
DX・リスキリングに最適な注目コース
2025年度は「人への投資」が強力に推進されており、特にDXやリスキリングに関連するコースが充実しています。
- 事業展開等リスキリング支援コース: 新規事業の立ち上げやデジタル・グリーンといった成長分野への事業転換に伴う新たなスキル習得を支援します。DX推進に必要なAI研修なども対象となり、企業の変革を後押しします。
- 人への投資促進コース: IT分野未経験者を即戦力化する訓練や、サブスクリプション型の研修サービス(eラーニング等)の利用を支援します。定額制のeラーNINGサービスも対象となるため、柔軟な人材育成計画が立てやすくなります。
対象となる訓練と助成率・助成額
助成の対象となるのは、事業活動とは区別して行われる「Off-JT」であり、訓練時間が10時間以上であることなどが要件です。eラーニングによる訓練も対象ですが、学習管理システム(LMS)で受講状況を適切に管理できることが求められます。
助成率はコースや企業規模によって異なりますが、中小企業の場合、経費助成で最大75%、さらに訓練時間中の賃金を助成する制度(1時間あたり960円など)もあり、非常に手厚い内容となっています。
申請から受給までの流れ
人材開発支援助成金の申請プロセスは、訓練の計画段階から始まります。2025年4月の制度改正により、手続きが一部簡素化されました。
- 「職業能力開発推進者」の選任と「事業内職業能力開発計画」の策定
- 訓練開始日の1ヶ月前までに、管轄の労働局へ「職業訓練実施計画届」を提出
- 計画に沿って訓練を実施
- 訓練終了日の翌日から2ヶ月以内に「支給申請書」を提出
- 労働局による審査後、助成金の支給
事前の計画提出が必須であり、計画と実績が一致している必要があるため、丁寧な準備が求められます。
【本記事の核心】IT導入補助金&人材開発支援助成金の複合活用戦略
ここからは、本記事で最もお伝えしたい「IT導入補助金」と「人材開発支援助成金」の戦略的な複合活用について解説します。
なぜ併用できるのか?その根拠を解説
前述の通り、両制度は管轄省庁(経済産業省と厚生労働省)、目的(生産性向上と雇用安定)、対象経費(ITツール導入費と訓練関連費)が明確に異なるため、併用が認められています。重要なのは、「同一の経費に対して二重に支援を受けない」という大原則です。このルールさえ守れば、両制度を組み合わせて企業の成長を加速させることが可能です。
具体的な連携パターン:eラーニングシステム導入と活用研修
最も分かりやすく、効果的な連携パターンがeラーニングの活用です。
- 【STEP1:IT導入補助金】eラーニングシステム(LMS)の導入
まず、IT導入補助金を活用して、社員の学習状況を管理・共有できるLMSを導入します。これにより、全社的な教育基盤が整います。補助金はソフトウェアの導入費用やクラウド利用料(最大2年分)に充当できます。 - 【STEP2:人材開発支援助成金】LMSを活用した研修の実施
次に、導入したLMSを使って行う研修プログラムに対して、人材開発支援助成金を活用します。助成金は、eラーニングのコンテンツ購入費用や、研修中の従業員の賃金に充当できます。
この2ステップにより、「学習の器」の導入コストと「学習の中身と時間」のコストの両方を大幅に削減できるのです。
複合活用で相乗効果を最大化する秘訣
相乗効果を最大化するには、計画段階でのビジョンが重要です。「どのようなDX人材を育成したいのか」「そのために必要なITツールと研修内容は何か」をセットで考えましょう。ツール導入が目的化するのではなく、人材育成というゴールから逆算して必要なITツールを選定することで、投資対効果は飛躍的に高まります。また、IT導入支援事業者と社会保険労務士など、両制度の専門家と連携することも成功の秘訣です。
申請計画の立て方と注意点
申請タイミングには注意が必要です。IT導入補助金は「交付決定後」にしかツールを発注・契約できません。一方、人材開発支援助成金は「訓練開始前」に計画を提出する必要があります。したがって、まずはIT導入補助金の交付決定を見据えつつ、並行して人材開発支援助成金の訓練計画を策定・準備していくのが効率的です。くれぐれも、LMSの導入費用を両方の制度に申請する、といった重複申請は行わないでください。不正受給となり、厳しい罰則が科されます。
申請の具体的なステップと成功へのヒント
両制度を有効活用するためには、いくつかの共通した注意点と成功のコツがあります。
申請前に必ず確認すべき共通の注意点
最も重要な点は、どちらの制度も原則として「後払い(精算払い)」であるということです。つまり、一度は自社で費用を全額立て替える必要があります。資金繰りに影響が出ないよう、事前に十分な資金計画を立てておくことが不可欠です。また、申請書類の不備や提出期限の遅れは、不採択や不支給に直結します。公募要領を熟読し、正確な書類作成を心がけてください。
専門家(社労士・IT導入支援事業者)を活用するメリットと選び方
複雑な制度を自社だけですべて理解し、手続きを進めるのは多大な労力と時間を要します。IT導入補助金はIT導入支援事業者、人材開発支援助成金は社会保険労務士といった専門家の力を借りるのが賢明です。専門家は最新の制度情報に精通しており、採択・受給の可能性を高める事業計画の策定や申請書類の作成をサポートしてくれます。信頼できる専門家を選ぶ際は、過去の実績や専門分野、料金体系を事前に確認しましょう。
よくある質問(FAQ)
- どちらの制度から先に申請すべき?
-
一概には言えませんが、先に「器」となるITツールを確保する観点から、IT導入補助金の申請準備から着手し、そのスケジュールに合わせて人材開発支援助成金の計画を練るのがスムーズです。
- 申請が不採択になったらどうすれば?
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IT導入補助金は複数回の公募があるため、不採択の理由を分析し、事業計画を練り直して次回公募に再申請することが可能です。人材開発支援助成金は要件を満たせば受給できるため、不備があった場合は労働局に確認し、修正して再提出します。
- 不正受給になるとどうなる?
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虚偽の申請などによる不正受給が発覚した場合、補助金・助成金の全額返還はもちろん、延滞金や違約金が課せられます。悪質な場合は刑事告発される可能性もあり、企業名が公表され社会的信用を失うなど、経営に致命的なダメージを受けます。絶対にやめましょう。
まとめ:DXと人材育成で切り拓く企業の未来
本記事では、IT導入補助金と人材開発支援助成金という二つの強力な制度を複合活用し、中小企業のDX推進と人材育成を両立させるための具体的な方法を解説しました。
重要なのは、これらの制度を単なるコスト削減策として捉えるのではなく、企業の未来を形作るための「戦略的投資」と位置づけることです。ITツールという「器」と、それを最大限に活かす「人」への投資を両輪で進めることで、貴社は変化の激しい時代を乗り越え、持続的な成長を遂げるための強固な基盤を築くことができるでしょう。
まずは自社の課題を整理し、どのようなITツールと人材育成が必要かを明確にすることから始めてみませんか。そして、必要に応じて専門家の力も借りながら、国の支援制度を最大限に活用し、貴社の未来を切り拓いてください。


